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細胞増殖:分裂前夜 [がん]

前回はアポトーシスによる自然な細胞死の過程があることに触れた。
正常な細胞は、決められた回数だけ分裂し、果たすべき役割が終わるとアポトーシスをおこしていく。では、細胞は毎日毎日減り続けていくのだろうか?
今までに人体は60兆個の細胞から成っている、と書いてきた。特定な疾患にかかっていなくて、生命が維持されている状態では、生体内の細胞数は精巧にバランスが保たれていて、毎日減った分だけ新しく作り出されている。
アポトーシスで死んだ細胞の代わりに、その細胞の近くのまだ増殖能力の余力を残した一つの細胞が二つの細胞に増えていく。この増える過程を「細胞分裂」と呼んでいる。
一つの細胞が、二つの細胞に分裂するということは、大腸菌とか肺炎球菌などの細菌でもやっていることなので、そう難しいことではないと考えられるかも知れない。しかし、一つの細胞が精密に二つの細胞になるということはとても難しく、そしてとても危険なことでさえある。
前に、細胞は自分が生まれて育った環境が、一番居心地がよい、ということについて触れた。正常な細胞が分裂するとき、その細胞は周囲の細胞と情報交換することなく、勝手に分裂するわけではない。1ミリ㎥の中に約100万個共存している仲間の細胞との精巧なネットワークで情報交換を行い、次に分裂する細胞の候補として自分がふさわしいのかどうか、を確認する。
また、分裂する細胞の内部でも、自分が分裂する細胞としての機能と余力を残しているかどうかの確認も怠わらない。この細胞内の監視システムの中心となって働くタンパクが、約30年前からしばしばマスコミでも取り上げられる「遺伝子の守護神」と言われる p53 だ。
正常な細胞では、この p53 が正確に機能し、分裂すべきかどうかを判断し、不必要な細胞増殖をコントロールしている。
少し長くなったので、実際に細胞が分裂する過程である「細胞周期」については次回に触れることにしたい。
タグ:がん
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がんとアポトーシス [がん]

アポトーシスという自然な「細胞の死」の形態がある。
ウイルスや細菌感染、火傷などの外的要因により寿命を迎える前に死んでしまうのではなく、細胞の中でその細胞が果たすべき役割を果たせなくなる変異が起こったり、機能を果たせないほどに細胞の老化が起こったりした時に、細胞はアポトーシスという死の形態を選択する。
この細胞の死の選択が、がん細胞と正常細胞の大きな違いの一つであり、がん細胞は自らがその臓器や組織の中で果たすべき役割を果たせなくなっても、アポトーシスを逃れて生き残るように変化( 変異 )していく。
アポトーシスは普通の細胞が迎える自然な死のパターンであり、けっして無駄死にではない。例えば、60兆個の細胞からなる人体では、毎日数千億個の細胞が死に、数千億個の細胞が新しく生まれることで生命維持のバランスをとっている。アポトーシスで死んでいく細胞は、新しく生まれてくる細胞が生きていくために必要な成分をしっかりリレーションしてから死んでいく。
たとえば赤血球のヘモグロビンに含まれる鉄。120日の寿命を迎えた赤血球は細胞膜の弾力が失われ、脾臓のネットに引っ掛かってしまい、1時間に約100億個破壊されてしまう。しかし、ヘモグロビン中の鉄はマクロファージに捕食され、骨髄で新しく生まれる赤血球に供給される。鉄は非常に大切なミネラルだが、このメカニズムがあるおかげで、私たちはポパイのようにホウレンソウを毎日のように食べなくともすんでいる。
がん細胞になると、この献身ともいうべき死の形態を忘れたように振舞う。それどころか、アポトーシスで死んだ仲間の細胞がいたスペースを埋めるようにして増殖する。

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良性腫瘍と悪性腫瘍 [がん]

先週は、「癌腫と肉腫」について書いたので、用語の整理として今回は良性腫瘍と悪性腫瘍について書きたい。
腫瘍は細胞の塊(かたまり)のことだが、良性と悪性の腫瘍がある。
細胞が集まって共同作業をしている集団を組織、組織が集まってある特定の機能を果たすようになった集団を臓器または器官という。さらに、ある目的のために、臓器が協力して大きな役割を果たすシステムを器官系と呼んでいる (消化器[官]系、呼吸器[官]系など)。
後述することになるだろうが、細胞は自分が生まれた場所(組織)で生活することが一番居心地が良い(こうした細胞の性格を「細胞の足場依存性」と呼ぶ)。
良性腫瘍とよばれる段階では、目に見えるほど大きくなる (これも大事で、1m㎥の細胞には約100万個の細胞が詰まっていると考えられる) が、生まれた足場を超えて違う臓器との垣根を越えて浸潤することはない。
良性腫瘍の中で、解りやすいのが イボ (疣贅:ゆうぜい) で、ヒトパピローマウイルスの感染で発生する良性疾患である。
これに対し、悪性腫瘍は隣との垣根を越えて「浸潤(しんじゅん)」するためのスキル(技術)を手に入れる。こうして、あるものは細胞のすき間をかいくぐりながら、あるものは周囲の 0.1mm 四方に張り巡らされている毛細な血管やリンパ管の中に侵入して行くことができるようになる (足場依存性の喪失) 。
こうしてがん細胞は、正常の細胞が自然に寿命を迎えて死んだあとのすき間を埋めるように増殖して、宿主を死に追い込むまで増殖を止めない。
こうして、腫瘍は良性腫瘍と悪性腫瘍に大別することができるが、明確な違いを見つけることは難しい。この良性腫瘍と悪性腫瘍の中間型が境界型と呼ばれるタイプで、女性性器腫瘍(子宮頚部、子宮体部)などで認められる。

タグ:がん
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癌腫と肉腫 [がん]

「がん」とひらがなで書いたが、なぜ癌としないのか?
実はあまり重要なことではないのだが(専門家には叱られそうだが)、癌という漢字が常用漢字に含まれていないため、公に使用されるテキストなどでは使いにくい。それで各地の国公立のがん専門施設は△△がんセンターとひらがなで名乗っているのであり、東京の財団法人であったがん専門病院は癌という漢字を使っていたが2011年に公益法人化に伴い「がん」に変えた(常用漢字については専門家がネットで解説しているので検索を)。
私は公務員ではないのでどちらでもかまわないのだが、ここだけ癌という漢字を使いたい。
悪性腫瘍には上皮系の組織から発生する癌腫と、非上皮系(間葉系ともいう)の組織から発生する肉腫の二つに大別される。上皮は身体の外という意味ではなく、身体の外とつながっている組織と考えると解りやすい。消化器系の組織は口から肛門までの1本の管でつながっているし、呼吸器系の組織も最後は肺胞という壁につきあたるがやはり外につながっている。この管の内側にある◎◎上皮と呼ばれる組織から発生する悪性腫瘍が癌腫である。
そして、外とはつながっていない組織、たとえば血管、骨、筋肉、脂肪などに発生する悪性腫瘍は肉腫と呼ばれる。
ちなみに、癌腫になる組織や細胞と、肉腫になる組織や細胞の重量や体積を比べると、圧倒的に肉腫になる組織や細胞が多く占めるが、実際に発生する悪性腫瘍は圧倒的に癌腫が多い。
いろいろなテキストで、この「癌腫」と「肉腫」をあわせたものをひらがなの「がん」である、と紹介されている。
私も今後はひらがなの「がん」で書き進めていこうと思うが、まぎらわしいので癌腫と肉腫の両方について触れる場合は「悪性腫瘍」と表現することとする。
タグ:がん

「がん」について書いていきます [がん]

「がん」とは何物?
ヒトの身体では、60兆個の細胞が共同生活をしている。はじまりは、1個の受精卵。お父さん由来の精子とお母さん由来の卵子から1セットずつ、ヒトとしてのゲノム(「ヒト」など種としての遺伝子の1セット)を頂いた生命体の誕生だ。
この受精卵が様々な細胞へと進化していく(この進化を「分化」という)。最初はどのような細胞にでも分化することが可能な受精卵(ES細胞)は、やがて脳、心臓、肺、皮膚などの専門的な細胞へと分化していき、どんな細胞にも分化できる才能は封印されていく。
長くても、短くともヒトが生きていく過程で、細胞はその生まれた場所で毎日のように再生される。老化の流れで、脳や心臓のように極端に増殖能力が低下する細胞は例外として。血液細胞、皮膚の基底膜細胞、小腸の絨毛細胞など生命の維持に必要な細胞は毎日再生されなければ生きていけない。
この再生の過程で、失敗が起きたものががん細胞だ。
還暦まで2年を切った。こうした発がんのメカニズムについて、書き残して置きたいと思いこのブログを始めた。まだ、現役なので休日などを利用しながら書き足していく予定。
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