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血管内皮増殖因子:VEGF [がん]

前回、胎盤の形成により、胎児の細胞の分裂と分化が急速に加速化されることについて触れた。
細菌の中には、酸素を効率よく使えず、むしろ苦手とする菌(偏性嫌気性菌)もいるが、哺乳類の細胞には酸素と栄養が必要で、それなしには生存できない。
がん化した細胞も同様で、充分な酸素と栄養が届かない環境で発生した悪性腫瘍は、休眠がんと呼ばれる状態で偶然見つかることがある。手術や検査などで見つかり、病理で調べてみると、明らかにがんの顔つきをしているのに、悪さをできないタイプの腫瘍なのである。

身体の隅々に酸素と栄養を運んでいるのは血液であり、血液を運んでいるのが血管である。大きな手術をすると、切除した範囲に含まれていた血管も切り取られるが、手術後に切除した部分の細胞や支持組織が増殖し、同時に新たな動脈と静脈、毛細血管からなる血管ネットワークが形成される。リンパ管新生もほぼ同様のメカニズムなので割愛する。

がんが一定以上に増殖しようとする時にも、上記の手術時ような血管新生のスキルが使われる。血管から離れた場所に発生したがんは、その無秩序に増殖する性質から、自らどんどん酸欠状態になっていく。この時、血管内皮増殖因子(VEGF)とういう血管を呼び寄せる物質を作れないがんは休眠がんで終わる。

細胞が低酸素状態になった際に細胞内にHIFという転写因子を持つがん細胞だけがVEGFを作り出すことができ、VEGFは細胞外液にパラクリンされ、一番近くを走る毛細血管にたどり着く。

VEGFの受容体(VEGFR)を持つ毛細血管の血管内皮細胞は、酸欠のSOSシグナルであるVEGFに気付き、シグナルの発信地に向けて増殖、浸潤していく。できたての血管は、一層の内皮細胞からなる脆弱な構造なので、新生血管に血流が再開通した時点で、アンジオポエチン1が分泌され、壁細胞と呼ばれる細胞が血管内皮細胞を覆い、新生血管を安定化させる。

こうして新生血管により、安定した酸素と栄養の供給と、細胞外液からの二酸化炭素と老廃物の除去に成功したがん細胞は急速に増殖していく。さらに悪性化したがん細胞は、呼び寄せた血管の中に侵入し遠隔臓器に転移するものもいる。

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エピジェネティクス [がん]

私たちの生体は、60兆個の細胞から成り立っている。
始まりは、両親から1セットずつのゲノムを受け取った1個の受精卵である。その受精卵が、母親の胎内で分裂と分化を繰り返し、約3兆個の人体となって生まれてくる。この間に何が起こっているのだろうか?
できあがった人体の細胞、例えば脳と皮膚の細胞は、形や機能は明らかに異なり、とても同じ細胞から出発したようには見えない。しかし、細胞内の遺伝子を調べれば、脳でも皮膚からも両親から引き継いだゲノムが1セットずつ検出できる。
これらのことは、エピジュネティクスという母親の胎内で起こっている遺伝子の変化を追跡することで説明できる。受精卵は、1週間から10日間かけて、母親の子宮内膜に着床する。着床すると、母親の子宮内膜と胎児との間に、胎盤という構造が形成され、栄養と酸素が供給される。これによって、胎児の細胞の分裂と分化が加速化される。
この加速化が起こった最初の1か月の間に、細胞がどのような集団の組織、臓器になっていくかが決まる。
ヒトの生命を維持するために必要なのは、約27000種類のタンパクだが、そのタンパク一つ一つを作り出すために必要なものも、転写因子と呼ばれるタンパク質なのである。
細胞の分裂と分化の方向性が決まるこの時期に、この転写因子が猛烈に働き、正確にその臓器の細胞になるべく誘導していく。そして、哺乳類のように複雑な構造を持つ生命体になると、ある専門的な機能を持つと、それ以外の自分たちには必要とされないであろう機能には、どんどん封印がなされていく。

DNAの二重らせん構造は、中央がアデニン、チミン、グアニン、シトシンの4種類の核酸が水素結合でつながっており、外側はリン酸でつながっている。遺伝子発現の封印は、このDNAの中央のグアニンとシトシンの結合のシトシン側にメチル(CH3)を付けることでおこる。

白血球のように、全身を駆け回るような機能は、通常の細胞には必要ではないし、造血幹細胞のように絶えず分裂・分化する機能も正常細胞には必要がない。こうした、機能は正常細胞では、メチル化されて封印されている。

細胞ががん化すると、こうしたメチル化されて封印されたはずのタンパクが作られだしたり、がん抑制遺伝子のように細胞増殖を制御するタンパクが作られなくなってしまう。このように、本来、生体が機能するよう作られたメカニズムが、がん化の過程で再度変化することをエピジェネティクスな変化と呼んでいる。

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