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増殖抑制因子と2 hit theory [がん]

がんの増殖を促進する物質「増殖因子」があり、その増殖を抑制するものがある。増殖抑制因子である。
われわれが生活している社会は、われわれにとって無害なものばかりではない。むしろ、避けることのできない有害なものが多く存在する。
放射線は原発ばかりでなく宇宙からも降っているし、太陽から届く紫外線も放射線と同じ電磁波の仲間である。また、空気中に含まれる活性酸素も、体内のNO(一酸化窒素)と結合すると、ONOOラジカルというものとなり、血管や組織にダメージをもたらす。
これらから逃れることは困難で、普通に生活しているだけで、1日に何千~何万ものがん細胞の元となる変異が発生していると考えることができる。しかし、それだけでがん化が進行する訳ではない。

なぜ、がん化への進行が止められているのか?その答えが、増殖抑制因子の存在である。
細胞の集団である組織が損傷した時、その損傷を修復するように仲間の細胞が増殖するが、むやみやたらに増殖が起こる訳ではない。
組織の中で、ダメージを受けていない細胞が選ばれ、選ばれた細胞も自分の状態をチェックして、分裂可能なことを確認してから細胞周期に入っていく。
こうして、むやみに細胞周期に入らないように、細胞の増殖を制御しているのが増殖抑制因子なのである。
細胞の増殖抑制因子は、みずからが存在する細胞自体が損傷した時、細胞周期を停止させ、損傷が回復するまで細胞周期を停止させ、損傷の回復に必要なタンパクを発現させる。
もし、回復不能であることが解れば、その時点でアポトーシスを起こして死んでいくが、ただ死ぬのではなく次に分裂する細胞のために、まだ使える核酸やリン酸などをアポトーシス小胞という袋に詰めて次世代に託す。

増殖を抑制するこのメカニズムは、ただ増殖を促すものよりも精巧である。
われわれのゲノムは、両親から1セットずつの2セットを受け継いでいるので、数々の増殖抑制因子もそれぞれ2つずつ備えている。
増殖因子の異状によるがん化は、受け継いだどちらかの遺伝子異常だけでも起こりうる。
抑制因子はどちらかの遺伝子が機能しなくなっても、異常になっていない抑制因子が機能するようになり、細胞の異常な分裂を制御する。このように、2つの遺伝子が機能しなくなるまで、それまでの機能が保たれることを、2ヒット理論( 2 hit theory )と呼んでいる。
このように、生命を維持する必要なメカニズムが備わっているのは、がん抑制遺伝子だけではないことも解ってきている。たとえば、コレステロールを吸収するために働くタンパクがあり、片方の親から欠損した遺伝子を受け継いだとしても、片方の親から正常な遺伝子を引き継いでいれば、高LDL状態を軽減できるが、両方の遺伝子に異常がみられると重篤な高コレステロール血症になってしまう。

増殖因子の分泌 [がん]

正常な細胞とがん細胞を比べたら、どちらが早く増殖できるのだろうか?
ほとんどの人は、「がん細胞」と答えるのではないだろうか。しかし、イザというときにしっかり分裂・増殖する能力は正常細胞の方が、はるかに優れている。
前回の注射の例は、小さな損傷の例だが、大事故にあった場合や、大きな手術(たとえば肺がんの手術では、左か右のどちらかの肺を全部切除するか、肺葉と呼ばれる部分を摘出する)を行った場合には、機能が全部回復しないまでも、生命を維持できるまで回復できるケースが少なくない。
こうした危機的状況に出会った時に、生命維持のために細胞の増殖を呼び掛けるタンパクが、がんの研究の初期に「がん遺伝子」と名付けられたタンパクだったのである。
今では、増殖因子と呼ばれており、その名前の方が理解しやすい。
血液の造血幹細胞や皮膚の基底層の細胞など、しょっちゅう分裂を求められる細胞は例外として、正常な細胞にはイザという時以外は、増殖因子の出番は少ない。
細胞ががん化する過程で、がん細胞になる細胞達はこの増殖因子を作り出し、いつでもその増殖因子の刺激を受け止められるように、増殖因子の受容体を細胞膜表面につきだすように変化していく。
1ミリ㎥の中に約100万個の細胞が詰まっているように、がん化の初期は非常に狭い領域で進行して行く。
こうした狭い環境の中で、血液を介さずに、ごく近傍の細胞に増殖因子などを分泌して働きかける仕方をパラクリン(傍分泌)といい、増殖因子を出した細胞がその増殖因子を自分の受容体で受け止める仕組みをオートクリン(自己分泌)と呼ぶ。

細胞が無駄な増殖をしないようp53、RBなどの増殖抑制因子が機能しているのだが、細胞ががん化するとこの監視機能が働かなくなる。この機能の喪失については次回に触れていきたい。

がん抑制遺伝子、がん遺伝子 [がん]

遺伝子はタンパクの設計図である。
遺伝子RBがDNAからmRNAに転写され、リボソームに運ばれて、翻訳されることでタンパクであるRBができあがる。
RBタンパクは、がん発生のメカニズムの研究の過程で、1986年に最初に発見されたがん抑制遺伝子だった。このタンパクは、網膜芽細胞腫(Retinoblastoma)という小児に多い悪性腫瘍の原因遺伝子として見つかった。
その後のアポトーシスなどの研究から、このタンパクは正常細胞では細胞周期のG1期で働き、前出のRポイントでチェックが終了するまでS期に進行しないように止めているタンパクであることが解った。
網膜芽細胞腫の症例では、正常なRBタンパクが作られておらず、G1後期の細胞周期でのチェック機構が十分に働かずに、この悪性腫瘍が進行してしまう。
細胞分裂は、時に危険な行為であることについて触れた。ゆえに正常細胞には、必要に迫られた時にはその危機を回避すべく早く正確に分裂する仕組みと、必要がない時には無駄に分裂しない仕組みが備わっている。
よく研修で話すたとえだが、私たちが採血する時に、皮膚を貫通して一番確保しやすい静脈まで注射針を挿入する。細胞は、1ミリ㎥の中に約100万個存在する。注射により、この数に近い細胞が皮膚から血管内皮まで損傷しているはずだが、だいたい15分もあれば出血は抑制される。
この時、皮膚の増殖を促しているタンパクが上皮増殖因子(EGF)、血管の修復を促しているタンパクが血管内皮増殖因子(VEGF)であり、損傷をすばやく修復するとすぐに分泌が止まる。
この細胞の増殖を促すタンパクが、研究の初期にがん遺伝子と名付けられたもので、私たちの健康な生命維持にかかせない役割を果たしている。

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細胞周期( cell cycle ) [がん]

一つの細胞は二つに分裂し、通常の機能を果たし、そして再び細胞分裂の時期を迎える。
この分裂終了時点から、再び分裂を終了する時点までを「細胞周期」という。細胞( cell )の分裂に関する周期( cycle )なので cell cycle と呼ばれている。
細胞周期は大きく、G1期→S期→G2期→M期の4つの時期に分類される。それぞれの時期について確認してみよう。

1.G1期:合成準備期
この時期の細胞は、休んでいる訳ではない。むしろその細胞が持っている果たすべき機能を遂行している時期といえる。胃壁の細胞であれば胃液を分泌し、肺胞の細胞であればガス交換を行っている。ほとんどの正常細胞の多くはこのG1期に存在している。
特に、分裂とは直接関係していないこの時期を、G0期と別建てで表しているテキストも多い。
G1期から、次のS期に入る直前にRポイント( restriction point )という細胞周期に関する重要なチェックポイントがあり、前回記載したその細胞が分裂に適しているかどうかの入念なチェックが行われる。
チェックが正常に終了すると、細胞周期に関連するサイクリンやサイクリン依存性キナーゼと呼ばれるタンパクの仲間達が次々と作られ(転写され)ていく。この時、E2Fという転写因子が核膜を越え、DNAの転写開始位置に侵入して行き、細胞周期を完遂させるために必要なタンパクを転写させる。
分裂に対して、十分な準備ができていないと判断した時には、前出の遺伝子の守護神 p53 が、RBタンパクに指令を届けさせて、E2FのDNA侵入を阻止させる。
Rポイントを越えた細胞は、見事二つの細胞に分裂できるか、途中のチェックポイントにかかってアポトーシスを起こすか、二つに一つの選択しか残されていない。

2.S( synthesis )期:合成期
ここで合成されるのは、DNAだけではない。細胞が生命を維持するために必要な細胞内小器官(ミトコンドリア、リボソームなど)やタンパクなど、すべてが複製される。

3.G2期:分裂準備期
十分にその組織で機能できない細胞が分裂することは危険なことでしかない。
細胞は分裂する前に、この準備期でS期で複製したDNA、細胞内小器官、タンパクなどが正常に機能できるものかどうかをこの時期で入念にチェックを入れる。欠陥のある細胞はここでアポトーシスで死ぬ。

4.M( mitosis )期:分裂期
G2期でのチェックが終わった細胞は、ここでようやく二つに分裂できる。この時期も大きく4つにわけることができる。
前期;この分裂期以外のDNAは、核膜の中で溶けている状態なので光学顕微鏡では観察しにくい。分裂期に入ったDNAは、1セット46本の染色体が2セット(92本)複製されて、凝縮している状態で観察されるようになる。
中期;前期で凝縮した染色体は、46本ずつの1セットずつの2グループになり、細胞の真ん中の赤道面とよばれる部分に集合する。それぞれの染色体の中央には、セントロメアと呼ばれるくびれがあり、そのセントロメアに微小管と呼ばれるタンパクが結合する。
後期:微小管を形作るチュブリンと呼ばれるタンパクは、北極、南極に相当する部分に存在する中心小体というタンパクの集合体を足場にして、染色体を両極に引っ張り始める。
こうして、染色体は二つの細胞に分配されるべく移動を開始する。
終期:染色体や細胞内小器官が、二つの細胞になるべく両極に向かって移動が終わると、新しい二つの細胞の間にくびれができる。このくびれが、どんどん縮んでいき、やがて完全に無くなり、細胞分裂が終了する。

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